How Might We: 我々はどうすれば〜できる可能性があるか?(思考法解説)
「How Might We…?(HMW)」はIDEOが採用し広く知られるようになったとされる思考法です。「我々はどうすれば〜できる可能性があるか?」という質問を起点とし順序立てて考察を進め、最終的に解となる仮説を導き出していきます。ここではHMWの概要と、個人的に活用している具体的な利用方法を紹介します。
概要解説
How Might Weという思考法のポイントを解説します。
3つの単語が指す意味
- How(どうすれば):解決策は無数にオープンに存在することを前提とします。
- Might(かもしれない):うまくいくかもしれないし、もしかするとうまくいかないかもしれない柔軟なアイデアの探求を意味します。「Can(できる)」ではないのがポイントで、思考におけるハードルが下がり、大胆なアイデアを自分自身で却下してしまうことなく可能性を探れるようになります。これは、新しい領域へ前進する可能性を秘めます。
- We(私たち):チームで一緒に考え、一緒に発想し、一緒に作る。一丸となって課題と向き合うという姿勢を示します。ただし、思考法としては個人でも活用できるものであると私は考えています。
CanではなくMightである理由:制約を超えた可能性の探求を重視するため
- How Can We…?:具体的で実行可能な解決策を探るニュアンス。しかし「できる」「すべき」などの言葉を使うと、判断を促され「本当にできるのか」「本当にすべきなのか」という方向に収束してしまうリスクがあります。間違った答えや中途半端な答えも恐れてしまい、この圧迫はチームでブレインストーミングする際の柔軟な発想を阻害しかねません。
- How Might We…?:仮定的、探求的、クリエイティブなアイデア発想を重視し、新しい視点や制約を超えた発想を促すニュアンス。できるかも?やれるかも?という、圧迫なく自由で多くの可能性を追求するのに役立ちます。「できないかもしれない」を受け入れるのがとても重要な、実験のようなスタンスなのではないかと私は解釈しています。
HMWは日本語では「どうすれば我々は〜できるか?」と翻訳されることが多い印象ですが、CanとMightの異なりを加味すると、「できるか?」ではCan寄りなので、日本語としては「できる可能性があるか?できないかもしれなくていい」というニュアンスの方がMightに近いかもしれません。
The Secret Phrase Top Innovators Useの記事によれば、以下の「How can we…」の質問は間違った質問であると説明されています。
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間違った質問:“How can we make a better green-stripe bar?”
- 「どうすれば我々はより良い『green-stripe bar(石鹸の商品)』を確実に作れるだろうか?」
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HMWの質問:“How might we create a more refreshing soap of our own?”
- 「どうすれば我々は独自のより爽やかな石鹸を作れる可能性があるだろうか?」
この質問の変化によって、そのチームの創造力は溢れ出し、アイデアがいくつも生まれ、その結果プロジェクトは大成功を納めたと記事には書かれています。この事例では、既存商品にフォーカスした確実性を求める視野であるか、より実験的で開拓の余地の模索につながる視野であるかの違いがあるように見えます。
HMWの効果的な活用:質問の幅を適切に設定すること
もうひとつの重要なことは、質問の幅を適切に設定することです。
- アイスクリームが時間経過で溶けてしまう
- 溶けた場合、今のままではユーザーの手にアイスクリームが溢れて汚れてしまう
この課題があったとして、HMWの質問を作ります。
- どうすれば我々はアイスクリームを地面にボタボタ落とさずに食べるためのコーンを作ることができる可能性があるだろうか?
- どうすれば我々はアイスクリームを持ち運びやすくできる可能性があるだろうか?
- どうすれば我々はデザートを再定義できる可能性があるだろうか?
この3つのHMWの質問うち、この課題に対する適切なHMWの質問の幅は「2. どうすれば我々はアイスクリームを持ち運びやすくできる可能性があるだろうか?」になります。
1では「コーン」という制約を不用意に設けることで自ら自由な発想に制約をかけてしまっています。「コーンを作ること」がもし要件に入っているなら別ですが、要件が「おいしいアイスクリームを提供すること」であればコーンの有無は重要ではないでしょう。
3では、話が飛躍しすぎて収拾がつかなくなります。課題に対してスケールが必要以上に大きいとアイデアが散漫になり、ブレストの意味が低下します。
2であれば、コーンというものを残したまま課題解決できる可能性もあれば、コーンを捨てて別の形式にすることで課題解決ができる可能性もあります。2の質問を軸にして、視点や視野を変え、あらゆる角度から可能性について考察していきます。
HMWという思考法で重要なのは「どのような質問を起点とするか」と解釈しています。なぜならば、質問を間違えてしまえばその先のすべてが間違いになってしまうからです。貧弱な質問なのか良い質問なのかの事例は Using “How Might We” Questions to Ideate on the Right Problems の記事にも掲載されているので参考にしてください。
具体的な活用方法の一例(筆者版)
IDEOの方々から見れば「それは違うよ!」と言われる可能性があるかもしれない、あくまで「私のHow Might Weの活用方法」としての具体例を紹介します。How Might Weは、ビジネスだけではなく個人の日常においても応用できるのです。個人活用なのでこの場合は「We(我々)」ではありませんが、それはこの場合重要なことではありません。ただ、内容は若干「Might」ではなく「Can」寄りかもな…とも感じますが、完全に習得しきれていないためなのでご了承ください。
課題はなにか
- 筆者は睡眠・起床に関し非常に脆弱な人間であり、短い睡眠での起床は不可能。寝坊リスクがとても高い人間であること。
- そんな人間が出張の2日間、必ず早朝に起床しなくてはならない状況に直面していること。
HMWの質問の作成
- 私はどうすれば2日間、必ずデッドラインに間に合うように起床できる可能性があるか?
- 【NG】私はどうすればこの目覚まし時計で必ず起床できる可能性があるか? → 課題に対しスケールが狭すぎるためNG。課題に対し「とある目覚まし時計を使って」という制約は不要。
- 【NG】私はどうすれば朝に強い人間なれる可能性があるか → 課題に対しスケールが広すぎるためNG。数日で人間の性質は変化しない。
具体的な解決策の模索
- 果たすべきなのは「デッドラインに間に合うこと」なので睡眠をとらなければいいのでは?
- 【NG】これまでの傾向から、朝方になって結局眠ってしまって逆により悪い結果になる確率が高いのでNG。
- これまでの傾向から、どれだけ眠らなくても13時間を超えて眠り続けたことはないので、デッドラインの13時間前に入眠すればデッドラインを超えることはないのでは?
- 【採用】睡眠時間を多めに確保することは安全性が高められ有効。
- 起床に問題があるというのは、目覚まし時計のアラームを鳴らしても意識がハッキリする前に無意識にアラームを止めてしまってそのまま眠り続けてしまうということ。
- では、アラームを3段階ほどに分ければさすがにその間に意識がハッキリできるのでは?
- これまでの傾向から、同じ目覚まし時計で2重のアラームを設定しても無意識に大元のアラームスイッチをOFFにしてしまうため無効。2重3重のアラームを実現するには複数の目覚まし時計を用意する必要がある。
- 【採用】複数の目覚まし時計を使えば、アラームを鳴らす位置をそれぞれ別の場所にでき、身体を起こして止めに行く動作が入るため意識がハッキリする可能性が高まる。
- 目覚まし時計を使用する以外の方法はないのか?
- 【採用】起きるのは「朝」なので、太陽が出ている。朝日は起床に対し有効なので、遮光カーテンを使用しなければ起床しやすさにつながる。目覚まし時計と併用する。
行動計画の実施とその結果
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1日目
- 出張初日の飛行機の時間はいつもよりも早いためその時間から逆算し13時間前に入眠できるよう、前日の勤務は早上がりして備えた。
- 目覚ましに関しても3つを別々の時間と場所にセットした。
- 遮光カーテンはナシにした(セキュリティ上、外から中が見えないカーテンはしている)。
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1日目の結果
- 起床成功、スケジュール通りに進行。
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2日目
- 2日目は自宅ではなくホテルの個室で一泊となる。1日目に大きな飲み会があり、1次会は21:00解散であった。その後2次会が開かれたが自由参加のためそのまま自室へ行き入浴を済ませ、すぐに入眠。
- 8:50のチェックアウトがデッドラインでその前に朝食の時間があるので22:30〜7:00の8.5時間の睡眠時間の確保ができる。絶対安全の13時間よりも少し短いが3つの目覚まし時計を6:00・7:00・8:00の3段階でセット、室内の別々の場所に配置。遮光カーテンはナシ。
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2日目の結果
- 6:00・7:00のアラームでは意識がハッキリすることはなく、8:00のアラームが鳴る前に朝日によって意識がハッキリし飛び起きた。朝日の活用が有効打となった。最後のセーフティを使わずに目標達成できたのがよかった。
評価
- 目標達成。作戦の勝利。
まとめ
「How Might We…?(HMW)」はチームでも個人でも活用できる問題解決のための思考法です。「我々はどうすれば〜できる可能性があるか?」という質問を起点とすること、課題に対し広すぎず狭すぎない範囲の質問にする、という2点以外は厳密なルールはない認識です。
「〜できているってどういう状況?」「その状況を満たす要件は?」「ではその要件をひとつひとつ満たすには?」などと逆算形式で思考を整理していくのが個人的にはお気に入りです。なにかの課題に直面したとき、漠然と模索するのではなく、ぜひこの思考法を活用してみてください。
参考文献
- 2017年 九州大学でのIDEO デザイン思考+イノベーションワークショップ内の解説より
- トム・ケリー, デイビッド・ケリー:“How might we ...”言葉で変えるIDEO流 創造的文化のつくり方, ハーバード・ビジネス・レビュー, 2014.
- Leah Fessler:Three words make brainstorming sessions at Google, Facebook, and IDEO more productive, Quartz, 2017.
- Warren Berger:The Secret Phrase Top Innovators Use, Harvard Business Review, 2012.
- Stanford d.School:“How Might We” Questions | Blended & Personalized Learning Practices At Work, 2024時点.
- Maria Rosala:Using “How Might We” Questions to Ideate on the Right Problems, Nielsen Norman Group, 2021.
- みきおけー:デザインにおけるHow Might Weとは何か:具体例とその効果, デザインダイアローグコペンハーゲン, 2016.
- 村上通子:アイデアを生み出す「問い」の話, 村上通子’s Post, 2024.